不動産クラウドファンディングの本人確認とは?必要な手続きとeKYC・法令対応を解説

不動産クラウドファンディングでは、投資家がWebサイトから会員登録し、ファンドを選んで出資する仕組みが一般的です。そのため、投資家の本人確認もオンラインで実施できるかどうかが、サービス運営の効率や利用者の利便性に関わります。
一方、本人確認の方法を決めるには、不動産クラウドファンディングの事業形態や関連法令を理解する必要があります。特に2027年4月には、犯罪収益移転防止法(犯収法)に基づく本人確認方法の見直しが予定されており、現在の運用を確認しておくことが重要です。
この記事では、不動産クラウドファンディング事業者に向けて、本人確認が必要となる場面、確認事項、関連法令、eKYCの活用方法を解説します。
- 本人確認の義務や実施方法は、事業形態と適用法令によって整理する必要がある
- 投資家登録から出資までのどの段階で確認を完了させるかが、運用設計の重要なポイントになる
- 2027年4月の犯収法施行規則改正を踏まえ、IC認証やJPKIへの対応を検討する必要がある
不動産クラウドファンディングで本人確認が必要になる理由
不動産クラウドファンディングは、複数の投資家から資金を集め、不動産の取得・運用などによって得られた収益を分配する投資サービスです。
一般的な不動産特定共同事業法に基づくサービスでは、投資家と事業者が匿名組合契約や任意組合契約などを締結します。インターネット上でこうした契約の締結を行う電子取引業務では、適切な業務管理体制が求められます。
オンラインで契約が完結する場合、事業者は投資家と直接対面せずに手続きを進めます。そのため、申込者が実在する人物か、登録情報が正しいか、第三者が他人になりすましていないかを確認する仕組みが必要です。
不動産クラウドファンディングの主な事業形態
不動産クラウドファンディングには、適用される法令や事業スキームが異なるものがあります。
不動産特定共同事業法に基づくサービス
不動産特定共同事業契約を通じて出資を受け、収益を分配する。
金融商品取引法に基づくサービス
不動産に関連するファンド持分などを金融商品として取り扱う。
その他の投資スキーム
契約内容や取引構造に応じて適用法令が異なる。
同じ「不動産クラウドファンディング」という名称でも、事業者に求められる手続きがすべて同一とは限りません。本人確認の要件を検討する際は、まず自社がどの法令に基づいてサービスを提供し、どの取引を行っているかを確認する必要があります。
投資家の本人確認はいつ、何を確認する?

不動産クラウドファンディングの利用開始から出資までには、会員登録、投資家情報の登録、本人確認、審査、ファンド申込みなどの手続きがあります。
ここで重要なのは、会員登録と投資家としての取引開始を区別することです。メールアドレスやパスワードを登録しただけでは、法令上求められる本人確認が完了したとは限りません。
本人確認を実施するタイミング
実際のサービスでは、会員登録後に投資家情報を入力し、本人確認と審査を完了してからファンドへの申込みを可能にする運用が見られます。事業者は次の点を整理しておく必要があります。
- 会員登録だけで利用できる機能は何か
- 投資家情報の登録時に何を取得するか
- 本人確認の完了をどの時点で必須にするか
- 審査中や確認不備の場合に出資申込みを制限するか
- 追加出資や登録情報変更時に再確認が必要になる条件は何か
これらを明確にしておくことで、本人確認が完了していない投資家による取引を防ぎやすくなります。
個人投資家の主な確認事項
犯収法に基づく取引時確認が必要な場合、個人については一般に以下の事項が確認対象となります。
本人特定事項
氏名・住居・生年月日
取引を行う目的
投資を行う目的
職業
投資家の職業
本人特定事項は、法令で認められた方法によって確認する必要があります。なお、投資家の年齢、投資経験、資産状況、リスク許容度などを確認する場合もありますが、これらは本人特定事項の確認とは目的が異なります。本人確認と投資適合性の審査を混同しないことが重要です。
法人投資家の場合
法人からの出資を受け付けるサービスでは、個人投資家とは異なる確認が必要になる場合があります。
犯収法上の取引時確認では、法人の名称・本店所在地、取引目的、事業内容、実質的支配者などが確認対象となります。また、法人を代表して手続きを行う担当者についても、本人確認や取引権限の確認が必要です。
一方、法人投資家の受入れ自体を行っていないサービスもあります。そのため、法人向けの確認フローを設計する前に、法人出資を認めるかどうか、どの書類を取得するか、担当者の権限をどのように確認するかを決めておく必要があります。
不動産クラウドファンディングに関係する法令
不動産クラウドファンディングの本人確認を考える際は、不動産特定共同事業法と犯収法の役割を区別する必要があります。
不動産特定共同事業法
不動産特定共同事業法は、不動産特定共同事業の適正な運営と投資家保護を目的とする法律です。
インターネット上で契約を締結する電子取引業務では、契約成立前の情報提供、電子的な手続き、業務管理体制などが重要になります。本人確認システムを導入する際も、本人確認だけを独立した処理として考えるのではなく、投資家登録、契約前の説明、契約締結、記録管理までを含めたサービス全体の流れに組み込む必要があります。
犯罪収益移転防止法(犯収法)
犯収法は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与の防止を目的として、特定事業者に取引時確認や記録保存などを求める法律です。
犯収法上の特定事業者が特定取引を行う場合、顧客の本人特定事項などを法令に従って確認する必要があります。ただし、不動産クラウドファンディングというサービス名称だけで、すべての運営事業者・すべての取引に同じ義務が生じると判断することはできません。
金融商品取引業者として行う業務なのか、不動産特定共同事業者として行う業務なのかなど、事業者の法的な位置づけと対象取引を確認することが前提となります。
2027年4月の本人確認方法の見直し
2027年4月1日には、犯収法施行規則の改正によって、本人確認方法が変更されます。
主な変更点の一つが、本人確認書類の券面画像と本人の容貌画像を送信する方式の廃止です。また、対面での本人確認についても、ICチップ付き本人確認書類の読み取りを求める方向で見直しが行われています。
確認ポイント
犯収法に基づく本人確認を実施する事業者は、現在利用している本人確認方式が改正後も利用できるか確認する必要があります。改正後のすべての本人確認が単一の方式に統一されるわけではないため、適用される取引や方式ごとの条件を踏まえて選定します。
不動産クラウドファンディングで利用される本人確認方法
不動産クラウドファンディングでは、投資家がスマートフォンなどから本人確認を行えるeKYCが活用されています。ただし、eKYCは特定の本人確認方式だけを指す言葉ではありません。撮影認証、ICチップを利用した認証、公的個人認証サービス(JPKI)など、複数の方法があります。

本人確認書類の撮影による認証
本人確認書類と本人の顔をスマートフォンなどで撮影し、申込者との同一性を確認する方法です。利用者にとって操作を理解しやすい一方、書類画像の偽造や改ざんへの対策が必要になります。
また、2027年4月の犯収法施行規則改正では、従来の画像送信型の本人確認方法が廃止されるため、対象事業者は利用条件を確認する必要があります。
ICチップによる本人確認
マイナンバーカードなどの本人確認書類に搭載されたICチップを読み取り、記録された情報を利用する方法です。書類の券面を撮影する方法と異なり、ICチップ内の情報を利用できるため、券面画像の偽造によるなりすまし対策に役立ちます。
ただし、対応する本人確認書類や読取方法、暗証番号などの条件は方式によって異なります。
JPKIによる本人確認
JPKI(公的個人認証サービス)は、マイナンバーカードなどに搭載された電子証明書を利用する仕組みです。電子証明書を検証することで、オンライン上で本人確認を行えます。
ICチップ内の券面情報を読み取る方式と、電子証明書を利用するJPKIは、どちらもICチップを活用しますが、確認する情報や仕組みが異なります。事業者は、必要な確認事項や利用者の操作負担、法令上の要件を踏まえて方式を選ぶ必要があります。
本人確認を投資家登録・出資フローにどう組み込む?
本人確認の導入では、認証精度だけでなく、既存の投資家登録やファンド申込みとの連携も重要です。例えば、本人確認が完了していても、会員登録情報との照合ができなければ、運営担当者による確認作業が残ります。
本人確認を含む一般的な業務フロー
メールアドレスなどを登録する。
氏名・住所・生年月日などを登録する。
事業者が採用する方式で本人確認を実施する。
本人確認結果と登録情報を照合し、必要な審査を行う。
所定の確認が完了した投資家に申込みを許可する。
必要な説明・手続きを経て出資契約を進める。
※上記は業務設計の一例であり、法令上の手続き順序を一律に示すものではありません。
本人確認が途中で止まった場合の対応
本人確認では、書類の読み取りに失敗する、登録情報と確認結果が一致しない、利用者が操作を中断するなどのケースがあります。
こうした場合に備え、本人確認の状態を「未実施」「実施中」「確認完了」「要再確認」などに分けて管理できると、運営担当者が対応状況を把握しやすくなります。また、確認が完了していない状態でファンド申込みに進めないよう、サービス側で制御することも重要です。
本人確認システムを選ぶ際のポイント
不動産クラウドファンディング事業者がeKYCシステムを選定する際は、本人確認方式の種類だけでなく、既存システムとの連携や運用面を確認する必要があります。
ポイント①
法令改正に対応できる本人確認方式
2027年4月の犯収法施行規則改正を踏まえ、IC認証やJPKIなど、必要な方式に対応できるか確認します。現在の本人確認方式から別の方式へ切り替える場合、投資家登録画面や審査業務を大幅に改修せずに対応できるかも重要です。
ポイント②
既存の投資家登録システムとの連携
本人確認結果を投資家情報と紐付けられるか、認証完了後に審査状態を更新できるかなどを確認します。API連携やローコードでの導入が可能なサービスであれば、既存のWebサイトを活用しながら本人確認機能を追加できる場合があります。
ポイント③
本人確認結果の確認・管理
認証結果だけでなく、確認日時、採用した方式、審査状況などを管理できるか確認します。法令に基づく記録保存が必要な場合は、保存対象・保存期間・アクセス権限なども整理しておく必要があります。
ポイント④
投資家が途中で離脱しにくい操作性
不動産クラウドファンディングでは、投資家がスマートフォンから手続きを進めるケースが考えられます。本人確認に必要な操作が分かりにくいと、登録途中で手続きが止まる原因になります。対応端末、認証方法の案内、エラー時の再試行、サポート導線なども選定時に確認しておくとよいでしょう。
よくある質問
不動産クラウドファンディングでは本人確認が必須ですか?
本人確認の義務は、事業者の法的な位置づけや対象取引によって判断する必要があります。また、法令上の義務とは別に、不正利用防止や投資家管理のために本人確認を実施する場合もあります。
会員登録時に本人確認を完了させる必要がありますか?
必ずしもメールアドレスなどの初期登録と同時に完了させる設計とは限りません。ただし、法令上の確認が必要な取引については、定められたタイミングまでに必要な確認を行う必要があります。
本人確認はオンラインで完結できますか?
適用法令の要件を満たす本人確認方法を採用すれば、オンラインで完結できる場合があります。撮影認証、IC認証、JPKIなどから、対象取引に適した方式を検討します。
2027年4月以降も本人確認書類の撮影だけで対応できますか?
犯収法施行規則の改正では、従来の画像送信型の本人確認方法が廃止されます。ただし、利用できる方法は対象取引や法令上の条件によって異なるため、自社の適用関係を確認する必要があります。
本人確認は初回登録時だけ行えばよいですか?
初回確認後も、登録情報の変更や取引内容、リスクの状況によって追加確認が必要になる場合があります。再確認が必要となる条件を運用ルールとして定めておくことが重要です。
まとめ
不動産クラウドファンディングの本人確認では、投資家の身元を適切に確認するとともに、登録から出資までの手続きを円滑に進められる仕組みが求められます。
- 自社の事業形態と適用法令を整理し、必要な確認事項を明確にする
- 投資家登録・審査・出資申込みをつなぐ本人確認フローを設計する
- 2027年4月の法改正を踏まえ、IC認証やJPKIなどへの対応を検討する
本人確認システムを導入する際は、現在の運用だけでなく、将来の法令変更やサービス拡張にも対応しやすい仕組みを選ぶことが重要です。
