有価証券取引の本人確認とは?証券口座開設・非対面取引の方法と犯収法対応を解説

有価証券取引では、証券口座の開設や一定の取引を行う際に、顧客の本人確認が必要となります。近年はオンラインで手続きを完結させるニーズが高まる一方、なりすましや偽造された本人確認書類を悪用した不正への対策も重要です。

また、2027年4月1日には犯罪収益移転防止法(犯収法)施行規則の改正が施行され、非対面本人確認の方法が見直されます。本記事では、証券口座開設と有価証券取引における確認の違い、法令上の要件、非対面本人確認の方法、eKYCの導入ポイントを整理します。

この記事のポイント

  • 証券口座開設時などの「取引時確認」と、取引の安全性を高めるための追加確認は区別する
  • 犯収法では本人特定事項に加え、取引目的や職業などの確認が必要になる
  • 2027年4月の改正を踏まえ、JPKIやICチップを利用した本人確認への移行を検討する
  • 導入時は本人確認の精度だけでなく、既存業務との連携や確認記録の管理も確認する
この記事の執筆・解説

株式会社ショーケース ProTech事業部 マーケティンググループ
小谷野 宏海(こやの ひろみ)

株式会社ショーケース - 本人確認(eKYC)・IC認証・JPKI領域のマーケティング担当|金融・通信・不動産業界向け本人確認の最新動向を発信

有価証券取引で本人確認が必要な理由

証券会社などの金融商品取引業者は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防ぐため、対象となる取引で顧客の取引時確認を行う必要があります。本人確認は、架空名義・他人名義による口座開設や不正取引を抑止するための重要な手続きです。

ただし、「有価証券取引」といっても、証券口座の新規開設、既存顧客による売買、相対取引、法人顧客との契約など、業務の形態はさまざまです。どの時点で何を確認するかは、事業者の区分や取引内容、顧客の状況によって異なります。

証券口座開設と有価証券取引で本人確認が必要になるケース

まずは、法令に基づく取引時確認と、事業者がリスクに応じて実施する追加確認を分けて考えることが重要です。

場面 確認の考え方 主な目的
証券口座の新規開設 対象となる契約・取引について、犯収法上の取引時確認を実施 顧客の特定、マネロン対策
既存口座での売買 売買のたびに新規の取引時確認が必須とは限らない。継続的顧客管理やリスクに応じた確認を実施 不正取引の防止、顧客情報の適切な管理
取引内容・顧客情報の変更 変更内容やリスクに応じ、追加確認・再確認を検討 なりすまし防止、情報の正確性確保
法人・代理人が関係する取引 法人や取引担当者、実質的支配者などについて、適用される確認事項を整理 取引主体と権限の把握

例えば、既に適切な取引時確認を済ませた顧客が通常の売買を行う場合と、初めて取引関係を開始する場合とでは、求められる対応が同じとは限りません。個別の適用判断は、取引の実態と最新の法令・監督指針に照らして行う必要があります。

犯収法で求められる取引時確認の内容

犯収法の対象となる特定取引では、顧客の本人特定事項だけでなく、取引の目的なども確認します。自然人と法人では確認する項目が異なります。

確認事項 個人顧客 法人顧客
本人特定事項 氏名・住居・生年月日 名称・本店または主たる事務所の所在地
取引を行う目的 確認対象 確認対象
職業・事業内容 職業 事業内容
その他 取引の状況に応じた追加確認 実質的支配者や取引担当者などの確認

なお、本人確認書類やICチップから取得できる情報だけで、すべての取引時確認事項が揃うわけではありません。申込フォームでの申告情報の取得や、社内での確認・審査を組み合わせた業務設計が必要です。

有価証券取引における非対面本人確認の方法

非対面での本人確認には、本人確認書類の画像を利用する方法のほか、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)や、対応する本人確認書類のICチップ情報を利用する方法があります。ただし、利用できる方式は適用法令・施行時期・必要な組み合わせによって異なります。

確認方法 仕組み・特徴 導入時の確認事項
ICチップを利用した本人確認 対応する本人確認書類のICチップから情報を読み取り、書類画像だけに依存しない確認を行います。 対象書類、必要な照合・認証手順、利用端末を確認します。
公的個人認証(JPKI) マイナンバーカードに搭載された電子証明書を利用して本人を確認します。 電子証明書の種類、暗証番号、利用環境を確認します。
書類画像などを利用する方法 本人確認書類の撮影画像などを利用します。2027年4月の改正で一部の方式が廃止されます。 採用方式が改正後も利用可能か、法令要件を確認します。

なお、ログイン認証や取引時の追加認証、不正検知は、本人確認後の不正利用対策として組み合わせるものです。犯収法上の取引時確認とは役割が異なります。

2027年4月の犯収法改正で変わる本人確認

2025年6月24日に公布された犯収法施行規則の改正は、2027年4月1日に施行されます。非対面本人確認について、本人確認書類の偽変造によるなりすましリスクが高い方法を廃止し、公的個人認証を中心とする方向で見直しが進められています。

金融庁は、偽造された本人確認書類を利用した不正口座開設などへの対策として、金融機関に対し施行日を待たない早期対応を求めています。

事業者が確認したい3つのポイント

現在利用している本人確認方式の棚卸し

書類画像の送信など、改正により利用できなくなる方式が含まれていないか確認します。

IC認証・JPKIへの移行計画

利用者の端末やアプリ、暗証番号の案内、途中離脱時のサポートを含めて検討します。

確認記録と既存業務の見直し

本人確認結果を顧客情報や審査業務とどのように連携し、必要な記録を管理するか整理します。

法改正は「すべての本人確認で一律に同じ手順が必要になる」という意味ではありません。対象となる取引や本人確認方式の要件を確認したうえで、適切な方法を選択することが重要です。

非対面本人確認を導入する際の業務課題

証券取引の本人確認では、オンラインで本人確認を完了できるだけでなく、その結果を申込審査や顧客管理に活用できることが重要です。

業務課題 検討すべき対応
本人確認書類の偽造・なりすまし ICチップ情報やJPKIなど、適切な本人確認方式の採用
確認作業の負担 取得データの連携、審査ステータスの可視化、手作業の削減
申込途中の離脱 スマートフォンでの操作性、必要な案内、エラー時のサポート
記録の保存・監査対応 確認日時・結果・利用方式などの管理、アクセス権限と出力方法の整備

有価証券取引にeKYCを導入するメリット

eKYC(オンライン本人確認)を利用することで、顧客が来店せずに本人確認を進められるようになり、事業者側の受付・確認業務の効率化も期待できます。

不正利用対策の強化

採用する方式に応じて、本人確認書類の偽変造やなりすましに対する対策を強化できます。

申込手続きの円滑化

オンラインで確認を進められるため、郵送や来店を前提とした手続きを減らせます。

確認業務の効率化

本人確認結果のデータ連携により、担当者による確認・転記作業を削減できます。

法改正への対応を進めやすい

本人確認方式を見直しやすい仕組みを選ぶことで、制度変更に伴う運用の更新を進めやすくなります。

非対面本人確認システムを選ぶ際のポイント

システム選定では、認証方式の対応状況に加え、導入工数や記録管理、既存システムとの連携を確認しましょう。

導入前の確認チェックリスト

  • 犯収法上の対象業務に必要な本人確認方式を利用できるか
  • JPKIや対応書類のICチップ読み取りに対応しているか
  • 既存の申込フォームや顧客管理システムと連携できるか
  • 確認結果・履歴の閲覧、保存、出力が可能か
  • 本人確認情報の保存先、保持期間、削除方法を確認できるか
  • アクセス制御、監査、セキュリティ対策を確認できるか
  • 利用者の対応端末、アプリ、暗証番号などの条件を案内できるか
  • 法改正や本人確認方式の変更時に運用を更新しやすいか

本人確認サービスを導入しても、取引目的の確認や顧客審査、継続的顧客管理まで自動的に完了するとは限りません。自社が担う業務とシステムに任せる範囲を明確にしたうえで比較することが重要です。

有価証券取引の本人確認に関するよくある質問

Q. 有価証券を売買するたびに本人確認が必要ですか?

必ずしも毎回、新規の取引時確認が必要になるわけではありません。口座開設時などの取引時確認と、既存顧客に対する継続的な管理やリスクに応じた追加確認は分けて判断します。

Q. 証券口座の開設は非対面で完結できますか?

法令上認められた本人確認方法を利用し、必要な申込・審査手続きを整えれば、非対面で進めることが可能です。具体的な手順は事業者の業務や採用する方式によって異なります。

Q. 2027年4月以降、本人確認書類の撮影だけで確認できますか?

改正により、本人確認書類の画像を利用する一部の非対面本人確認方式が廃止されます。画像を使うすべての業務が一律に禁止されるという意味ではないため、採用方式が改正後の要件を満たすか確認してください。

Q. JPKIを利用すれば、犯収法上の確認はすべて完了しますか?

JPKIは本人特定事項の確認に活用できる方法ですが、取引目的や職業、法人の場合の実質的支配者など、別途確認が必要な項目があります。

Q. 本人確認記録は保存する必要がありますか?

犯収法上、対象となる取引時確認について確認記録の作成・保存が求められます。一般に確認記録は取引終了時など法令所定の起算点から7年間保存する必要があります。保存する内容や起算点は個別に確認してください。

まとめ

結論

有価証券取引の本人確認は、取引の種類と法令要件を整理したうえで非対面化を進める

証券口座の開設と既存顧客の売買では、本人確認の目的や必要な手続きが異なります。まずは対象となる取引時確認と業務上の追加確認を整理し、2027年4月の改正を踏まえてJPKI・ICチップを活用した方式への対応を検討しましょう。

あわせて、顧客の操作性、確認結果の連携、記録の管理まで含めて設計することが、実務で運用しやすい非対面本人確認につながります。

参考:金融庁「犯収法施行規則の改正について」、金融庁「マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題」。法令・運用の最新情報は関係省庁の公表資料をご確認ください。